| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T25-2
気候変動予測における「短期(または近未来)」とは、概ね現在から2030年あたりまでを指す。そこではいわゆる地球温暖化によるグローバルな温度上昇幅こそ小さいが、ローカルには人為起源エアロゾルなどの放出によって大気組成や気象プロセスに大きな変化が生じる恐れがある。そのため、短期予測では格子間隔50km程度の高分解能な気候モデルが用いられ、理想的には台風・集中豪雨・熱波のような局地性の高い極端な大気現象も再現することを目指している。短期予測の時間スケールでは、陸域生態系では分布移動のようなドラスティックな変化は起こらず、CO2収支の変化に伴う炭素循環フィードバックの効果も小さいと考えられる。反面、急速に進む森林伐採に伴う地表状態の変化や、気象変動に対する植生応答による葉面積指数(LAI)の変化は、陸面における熱・水交換を変化させて大気へのフィードバック効果をもたらす可能性が高い。そのため、短期予測を行う気候モデル(地球システムモデル)とリンクされた陸域生態系モデルは、植生分布は現在のままと仮定して、土地利用変化やLAI変化の影響をシミュレートする。そこで再現された変化は、気候モデルの一部に含まれる陸面物理過程スキームに反映され、アルベド(反射率)や群落コンダクタンス(ガス伝導度)の変化を介して大気に影響を与える。従って、ここで用いられる陸域生態系モデルの大きな課題の一つがLAI予報であり、平均的な葉量だけでなく落葉樹林や草原では葉フェノロジーの季節的タイミングを適切に再現する必要がある。近年では、広域的なシミュレーション結果を検証するため、衛星観測によるLAIとの比較が行われている。本発表では、植生分布に大幅な変化が生じない短期予報に対応した陸域生態系モデル(VISIT)の例を中心に、モデル研究の現状とLAI予報などの課題について紹介する。