| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T28-1

コイ科の淡水魚カマツカにおける大きく分化した系統とその二次的接触

*富永浩史(京都大・理),中島 淳(九州大・工), 渡辺勝敏(京都大・理)

淡水魚は基本的に淡水域を通じた移動しかできないため,分布域形成には地形変動や気候変動に伴う水系の接続分断などの地史的イベントが強く影響する.なかでも広域分布種は,その分布域拡大の長い歴史を反映した深い個体群分化を示すことが多い.カマツカ(Pseudogobio esocinus)は,日本産純淡水魚の中で最も広い分布域を持つ種のひとつであり,本州,四国,九州の全域に分布する.私たちは,カマツカの遺伝的集団構造と分布域形成史を明らかにするため,分布域全域にわたる網羅的な系統地理解析を行なった.解析にはミトコンドリアDNAシトクロムb領域を用い,大陸部の集団や同属近縁種のデータも比較のため加えた.その結果,日本のカマツカには大きく分化した3系統(Group 1〜3)が含まれていることが明らかとなった.本州中部の中央高地をおおよその境に,西日本にはGroup 1とGroup 2が,東日本にはGroup 3が分布する.Group 2とGroup 3は前期鮮新世以降の中央高地の隆起によって分岐した姉妹群と考えられ,他の系統や同属近縁種と大きく分化した単系統群である.Group 1は朝鮮半島の集団や中国東北部産のP. vaillantiと最も近縁であるが,3つの山地の隆起年代を較正点にした分岐年代の推定結果から,鮮新世以降,日本と朝鮮半島付近の集団間には交流がなかった可能性が高い.しかし,Group 1は分布域が西日本に限られることから,中央高地の隆起後に分布を拡大したと推定される.したがって,日本のカマツカの分布域は,Group 2とGroup 3を含む系統およびGroup 1という,2つの異なる系統の異なる時期の分布拡大とその二次的接触によって形成されたと考えられる.


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