| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T28-5
昨今の分子生物学的手法および解析技術の発展、大型遺体や花粉化石情報の収集および分布モデルに基づいた過去の植生復元手法の発展などにより、樹木の系統地理学への理解は急速に深まりつつある。これまで樹木の系統地理学的研究は、最終氷期最盛期(LGM;約25000-15000年前)における南方レフュージアへの分布縮小と、その後の分布再拡大により多く議論され、学問分野は発展してきた。一方、最近の知見はこれまでの“南方レフュージアのパラダイム(southern refugia paradigm; Maliouchenko et al. 2007)”に囚われずに、LGM期における北方地域での生残(Bhagwat and Willis 2008)やさらに古生態学手法では検出されていないレフュージア(cryptic refugia; e.g. Provan and Bennett 2008)も考慮しながら、より長い時間軸で樹木の系統地理学的構造の形成過程を考えることも重要であることを示している(Tsuda and Ide 2010)。このように現在、樹木の系統地理学はパラダイム・シフトのときを迎えているといえる。そこで本発表では、発表者が研究してきたカバノキ属ウダイカンバ(Betula maximowicziana)の遺伝構造データも紹介しながら、既報の日本産樹木の系統地理学的構造を概観するとともに、その形成要因について再考したい。