| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T29-1
アマモ場は、沿岸において高い生態系機能をもつ場所であるが、世界的な減少が懸念されている。近年、リモートセンシング(RS)・GISの技術的進展により、アマモ場の広域、長期の変動パターンの追跡が可能になった。しかし、その変動機構は十分に解明されていない。そこで、本研究では、東京湾富津干潟のアマモ場を対象に、RSにより取得した空間データのタイプに対応した2種類の野外調査を行い、アマモの空間変化のプロセスを明らかにすることを試みた。
第1に、アマモ場の植生のパッチ動態の変動機構に関連して、季節風に起因する方向性のある撹乱の効果を検証した。RSで抽出したアマモの各植生パッチ(ベクトル形式の空間データ)の形状の時間的変化と、野外における各パッチの成長量および撹乱に伴う堆積物量の変化の計測結果を比較することにより、アマモのパッチにおける底質の堆積作用は方位によって大きく異なり、方向性を持った物理的撹乱の影響を受けることが検証された。
第2に、RSで判別した植生分布の空間動態(ラスター形式の空間データ)について、画像からでは判別できない種と水深の変異が与える効果について、空中写真画像解析と同じメッシュサイズで現地調査を行うことにより検証を試みた。その結果、海草各種の空間動態および種の置換には水深および植生の空間構造が影響し、アマモ場の深い場所では小型種から大型種への遷移が進行する一方で、小型種が浅い場所で維持されやすいことが明らかになった。
以上のように、RSと現地調査の統合的解析により、従来空中写真や衛星画像だけで確認されていた植生変動パターンとプロセスとの関係を明らかにすることができる。一方で、短期間の野外調査では追跡できない各種プロセスの時空間的変異の重要性も指摘され、一般的な予測に結びつけるためには課題もあることも明らかとなった。