| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T29-3

安定同位体から生物の環境選択を考える:景観構造に着目して

*赤坂卓美(北大院・農),赤坂宗光(国環研),高津文人(国環研),中村太士(北大院・農)

人為景観における野生生物個体群の適切な維持管理は、生物多様性保全を考える上で重要な課題である。この課題に対し、景観生態学の視点からは、対象生物の生態的特性に応じた景観要素の空間配置やスケール依存性などを考慮した土地利用計画案を検討することで貢献ができる。しかし、これまでは景観スケールでは生物の分布情報と景観要素の配置や組成の関連を調べることに留まり、実際にどの景観要素でどの程度採餌をしているかなどの情報は現地調査スケールでの検討に頼ることが多かった。

対象とする動物の体の一部(例えば毛、糞)の安定同位体を分析することで、実際に対象動物に同化した餌が何かだけでなく、その餌の供給源(森林や水域など)も特定することができ、結果として、餌の由来の多様性を求めることが可能になる。例えば食虫性の動物の場合、対象動物が多様な景観要素から発生する昆虫を獲得することが可能な景観配置を明らかに出来れば、対象種は、特定の景観要素からの餌資源の供給が一時的に途絶えたとしても、他の景観要素からの餌資源の供給により補填可能となり、結果的に個体群の維持に貢献するかもしれない。

発表者らは、北海道十勝地方に存在する農地景観において、食虫性コウモリ類2種(Myotis gracilis, M. frater)を対象に、コウモリが摂取した餌資源において、森林、農地、そして河川由来それぞれが占める割合を安定同位体分析により推定した。これを用いて餌資源の発生由来の多様度を算出し、各個体の行動圏に含まれる景観要素の形状や多様性などの景観構造との関係を検討した。結果、両種の餌の多様性は、行動圏内に含まれる景観要素の多様度に対して異なる傾向を示した。本発表では、コウモリ類の餌資源を考慮した保全計画の指針を、景観生態学的アプローチに安定同位体分析を併せて議論していく。


日本生態学会