| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T31-5
自家不和合性は、被子植物においてもっとも一般的な近親交配回避の生理的・遺伝的なメカニズムのひとつである。自家不和合性を持つことは、質の低い自家受粉(自殖)由来の種子を生産するのを防ぎ、質の高い他家受粉(他殖)由来の種子を生産することができる点で有利であると考えられる。しかしながら実際には、自家不和合性が崩壊し自家和合性になることで、自家受粉(自殖)を行う性質が何度も繰り返し平行進化してきたことが多くの分類群において知られている。自殖は近交弱勢を伴うにも関わらずなぜ進化するのか、どのような有利性があるのか、これがダーウィン以来多くの植物進化学者を悩ませてきた問題である。
今まで、自家和合性の適応的意義はいくつか提案されてきた。一つ目は、自分のゲノムを花粉と胚珠両方から伝えることができるというゲノムの伝達効率の有利性、 二つ目は、交配相手や花粉媒介者がいない状況であっても(花粉制限)、一個体で子孫を残すことができるという繁殖保証の有利性である。もし何らかのきっかけで近交弱勢の値が小さくなることがあれば、これらの要因によって自家和合性・自殖性が進化する可能性があると考えられている。しかしながら、実際に過去にどのような淘汰圧のもとで自家和合性が起源したのかを現在の植物集団の生態学的調査だけから探ることは難しいとされてきた。
我々は、アブラナ科シロイヌナズナ属において自家和合性の進化に関わった遺伝子群の分子集団遺伝学的なパターンを調べることによって、実際に過去にどのような環境下で自家不和合性が崩壊し、自殖が起源してきたのかを探ろうとしている。シミュレーション解析の結果、花粉制限などの環境条件に依存して自家和合性進化に関わる突然変異に特徴的な集団遺伝学的パターンが現れることがわかった。シミュレーションと集団ゲノム学的実証研究の両面から、考えうる自家和合性の適応進化のシナリオを議論したい。