| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-06

哺乳類の地域絶滅がブナ林に生息する糞虫群集の多様性に及ぼす影響

*江成広斗(宇都宮大・農・里山), 小池伸介(農工大・農), 坂牧はるか(岩手大・連合農学)

食糞性コガネムシ(糞虫)群集の多様性は、その餌資源や産卵場となる「糞」を提供する哺乳類の生息状況に強く影響を受けることが一般的に知られている。しかし、哺乳類種の地域絶滅が糞虫の群集構造に与える影響を定量化した研究は極めて乏しい。そこで、明治後期から昭和初期の乱獲により、生息する中・大型哺乳類種の異なる3地域のブナ林(白神山地、津軽山地、八甲田山)において、ニホンザル・ツキノワグマ・ニホンカモシカ・ウシの新鮮な糞を誘引餌としたpitfall trapを2009年の春季と夏季にそれぞれ設置し、糞虫の群集構造と多様性を評価した。その結果、合計で1862個体、14種の糞虫が確認され、その多くが特定の哺乳類種のみを選好するスペシャリスト種であることが分かった。また、生息する哺乳類種の減少(特にニホンザル生息の有無)は、当該地域に構成される糞虫群集の「コア種-サテライト種」の関係に影響するものの、冷温帯林に生息する糞虫群集の多様性の低下に必ずしも繋がらないことが明らかになった。一方で、唯一3調査地すべてに生息するニホンカモシカの糞は、多くの糞虫から忌避されることなく利用されており、ニホンザルやツキノワグマの地域絶滅に伴う負のカスケード効果を低減させる役割(fallback resource)を担っている可能性も考えられた。


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