| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-07

カシノナガキクイムシの行動モデルによるナラ枯れの感染拡大予測

*大野(鈴木)ゆかり, 今廣佐和子, 河田雅圭, 中静透(東北大・生命科学)

ナラ枯れとは、ナラ菌によってナラが立ったまま枯れる現象を指す。ナラ菌は、カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)の共生菌であり、カシナガがナラに産卵する際に、ナラに感染する。このナラ枯れは全国に拡大中であり、ナラ枯れにより、鳥獣害の増加や、里山の景観や紅葉の喪失、土壌流出や土砂崩れの増加が危惧されている。昨年、全国的にクマ被害が急増し、原因は猛暑によるドングリ不足とされたが、ナラ枯れによるドングリ不足も影響しているのではないか、と推測された。また京都では、ナラ枯れにより、黄色に紅葉するはずのナラが紅葉せず、観光資源が減少した、と報告された。ナラ枯れの悪影響はこれからも大きくなると考えられ、ナラ枯れの感染拡大を予測し、防除対策を立てる必要がある。

そこで著者らは、カシナガの行動モデルを構築し、ナラ枯れの感染拡大予測をすることを目指している。本研究では、カシナガの移動、集合性や選好性を考慮した行動モデルを構築し、植生分布の違いが感染拡大や立ち枯れに与える影響を、コンピュータシミュレーションにより推測することを目的とした。

カシナガは大きい空間スケールでは、飛翔によって移動し、小さい空間スケールでは、幹の太いナラを好み、集合フェロモンによって集合する。あるナラに産卵するカシナガが多いほど、そのナラは枯死する傾向にある。しかし一回ナラ菌に感染し、枯死せずに生き残ったナラは、次の年から抵抗性を持ち、カシナガからあまり産卵されず、枯死もしにくい。これらをモデルに組み込み、個体ベースモデルを構築した。個体ベースモデルのシミュレーションでは、ナラの本数が均一な場合、ランダムな場合、そしてナラ林とナラ林の間が離れている縞模様の場合を設定した。また、ナラの幹の太さが均一な場合とランダムな場合も設定した。これらの植生分布の違いが、感染拡大や立ち枯れの被害に与える影響を調べる。


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