| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) B1-09
モンゴルでは、余技とヒツジを一つの群れとして放牧している。肉と乳はともに食用とされるが、羊毛よりヤギのカシミアの方が高価で、毛を売っての一匹あたりの収入はヤギの方が高いため、近年、ヤギの増加が著しい。ヤギは、ヒツジと比べて、樹木を食べるとか草本を根こそぎ食べるとかの理由で、森林と草原を退行させる悪役とされているが、意外に実証はみあたらない。本研究の目的は、草原に対するインパクトが果たしてヤギとヒツジで異なるのかを確かめることである。
モンゴルの草原地帯のバヤンウンジュールの灌木が混じる草原にて、10m平方の柵に、2010年8月に、ヤギとヒツジを1匹づつと2匹づつを入れて実験を行った(繰り返しは各5)。入れる前にそれぞれの柵の灌木の樹冠の被度を求め、ヤギとヒツジは体重を測定した。柵に入れて4日後にすべての家畜の体重を測定し、植物の残存量を求めた。二匹づつ入れた柵はさらに3日間延長して7日後にも家畜の体重と植物の現存量を測定した。
ヤギとヒツジの違いは、ヤギは灌木の葉を優先して食べ、ヒツジは草本を優先して食べることであった。4日後に、ヤギは灌木の被度が大きい柵では体重減が見られず、灌木の被度が小さい柵で体重が減少した。ヒツジは草本を好むにもかかわらず、草本の被度とは関係なく体重が減少した。これは、面積あたりの現存量が、草本より灌木の葉が5倍以上大きかったためと思われる。7日後には、ともに、灌木の葉も草本も食い尽くし、体重は減少した。
ヤギとヒツジは灌木と草本に対する好みの違いはあるが、飢えが強くなると、ともに草本の地下部を含めて樹木と草原を食い尽くすという悪影響は違いがない。草原退化への悪影響を避けるためにはヤギとヒツジを含めて過放牧にしない必要がある、それ以前では、ヤギの方が灌木に対する影響が大きいと思われる。