| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-02

免疫関連遺伝子座MHCに基づくニホンテン集団の保全遺伝学的解析

*佐藤淳,御厨昭平,山口泰典(福山大・生物工),細田徹治(和歌山耐久高校)

ニホンテンMartes melampusは食肉目イタチ科テン属に属する森林性の哺乳類であり、本州、九州、四国、対馬に自然分布する他、北海道には移入個体が生息する。本州、九州、四国にはホンドテンが生息する一方で、対馬にはホンドテンとは別亜種のツシマテンが生息しており、絶滅危惧II類(VU)に指定されている。演者らは、これまでにミトコンドリアDNA及び核遺伝子イントロン領域を用いた解析により、ツシマテン集団の遺伝的多様性がホンドテン集団よりも低いことを明らかにしている。本研究では、ツシマテン集団の絶滅リスクを生体防御能の観点から直接的に評価するために免疫機構に関連するMHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスII遺伝子座の多型を解析した。ホンドテンとツシマテン各14個体についてMHCクラスII DQB遺伝子を対象としてPCR、サブクローニング、コロニーPCR、DNA塩基配列の決定を行い、最終的に28個体から356個のDQB遺伝子部分塩基配列を決定した。相同性解析の結果、DQB遺伝子と相同であると考えられる7つのハプロタイプが得られた。コドン置換モデルに基づく最尤法を用いて分子進化解析を行ったところ、これら7つのハプロタイプの分化の過程において、正の自然選択が働いたことが示唆された。さらに、ベイズ法に基づき、抗原認識部位として知られる座位に正の自然選択を検出した。各ハプロタイプを採集地点にプロットすると、ハプロタイプ1、3、4は本州、九州、四国の複数地域で観察された一方で、ハプロタイプ6は対馬のみ、ハプロタイプ2、5、7は四国のみで観察された。また、本州、九州、四国はいずれも複数種類のハプロタイプを有する一方で、対馬集団の持つハプロタイプは1種類であった。この低い遺伝的多様性はツシマテンの高い絶滅リスクを示唆する。


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