| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-020
多くの雌性両全性異株植物で観察される雌の出現頻度の集団間変異は、雌雄同株から雌性両全性異株に至る進化過程を理解する上で重要な意味を持つと考えられる。多年生草本オオバナノエンレイソウには両性個体のみで構成される雌雄同株集団に加え、両性個体と雄蕊が矮小化した雌個体で構成される雌性両全性異株集団が存在する。また、雌頻度は集団間で大きく異なり(0~42%)、集団の繁殖様式に深く関与している。集団の雌頻度を決定する要因としては、雌の適応度に影響する花粉制限や集団間の系統関係に依存する系統的制約などの可能性が考えられるが、まだこれらを支持する正確な情報は得られていない。そこで本研究では新たな観点として、過去の集団間交雑に注目した。被子植物における雌化現象は核・細胞質DNA間の不親和性に起因する例が多く、遺伝的に分化した集団間での二次的交雑は雌の出現頻度と関連する可能性が指摘されている。染色体多型に基づく研究から、北海道におけるオオバナノエンレイソウは過去の地史的変遷に伴い大規模な集団間交雑が生じたことが明らかになっている。本研究では北海道に自生する42集団を対象に、花粉制限の強さ、集団間の系統関係、そして過去の集団間交雑の程度を推定し、雌頻度との関連性を調査した。
各集団において開花密度と集団サイズから花粉制限の強さを、cpDNA配列多型から系統関係を推定したところ、いずれも雌頻度との関連性は見られなかった。一方で、核DNA上のSSR多型から集団の遺伝的構造を解析したところ、集団間交雑から生じたと考えられる、遺伝的に混合された集団ほど雌頻度が高くなる傾向が見られた。今後オオバナノエンレイソウにおける雌性両全性異株性の進化を理解していくためには集団間交雑を考慮に入れた実証的なアプローチが有効であると考えられる。