| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-032
湿原性植物は、陸上植物群集のなかでも最も人為的攪乱の影響を受けている種群の一つとされており、個体群の分断や孤立化が急速かつ極度に進行しつつある。生物の存続には、複数の個体群間における遺伝的交流によって維持される遺伝的な多様性が深く関与するといわれている。また一方で、同種であっても地域個体群ごとに独自の適応進化を遂げ、それぞれ独自の生態・生理的特性を獲得しているケースも多く見られる。従って、孤立しつつある個体群を適切に保全するためには、各個体群の遺伝的特性として遺伝的多様性や遺伝的交流の程度を明らかにするだけでなく、生態・生理的特性における個体群間の違いも同時に把握する必要がある。
北日本の湿原景観を特徴づけるスゲ類は、主に極東亜寒帯を分布域とする北方系の種群で構成される。北海道はそれらのほぼ分布南限にあたるため、特に生育地の温度環境と関連した局所適応が生じている可能性がある。本研究では、極東亜寒帯のスゲ-ヨシ湿原に広く優占するヤラメスゲを対象に、北海道内8地域(釧路湿原・落石湿原・風蓮川湿原・濤沸湿原・湧洞沼湿原・勇払湿原・マクンベツ湿原・浅茅野湿原)の個体群について、DNAマイクロサテライトマーカーを用いた集団解析を行うとともに、各個体群由来の種子を用いた同一環境下での室内生育実験を行った。室内生育実験は22.5℃の定温環境条件下で行い、アンモニア態窒素および有機体窒素(グリシン)の吸収速度、相対成長速度、根の呼吸速度を測定した。本報告では、これらの遺伝的特性および生態生理特性について、個体群間の比較を行う。