| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-038
熱帯雨林の樹木個体群の遺伝的多様性と生態特性の間には何か特別な関係が存在するのだろうか?送粉、種子生産、種子分散、発芽、定着、死亡、成長、開花、等、個体群動態に関する様々な過程は、個体群の遺伝的性質に間違いなく何らかの影響を与えているだろう。しかし、個体群の遺伝的特性と構造・動態との関係にする熱帯雨林での実証的研究は見当たらない。私たちは、サラワク熱帯雨林に大面積調査区を設置して熱帯樹木の個体群動態を20年に渡って記録してきた。近年は、同じ調査区でフタバガキ科樹種の遺伝特性をマイクロサテライトマーカーを用いて調査している。今回は、これまでに得られたフタバガキ科10種の成熟個体の遺伝特性値(Na, Ne, He, Ho, Fis, 空間遺伝構造)と直径1㎝以上の個体の構造・動態特性値(個体密度、地形ハビタット特性、直径分布、空間分布特性、死亡率、成長速度)を比較し、両者の間に関係が見られるかどうかを検討した。その結果、構造・動態特性間に見られる相関(例えば、死亡率と成長速度の間に見られる正の相関)に比べると弱いが、構造・動態特性と遺伝特性値の間にもいくつかの関係が認められた。遺伝特性と特に関係が深いと思われた構造・動態特性は成熟個体のパッチサイズと成熟木あたり稚樹数であった。パッチサイズの大きい種では遺伝的多様性の指標となるNa, Ne, He等の値が小さく、空間遺伝構造が弱かった。また、成熟木あたり稚樹数の少ない種は低いFis値を持っていた。発表では、こうした関係が生ずる原因について考えたい。