| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-043
百数十年に一度一斉開花枯死するササにおいては、群落形成メカニズムやその後の群落動態は個体群研究の関心事であるが、一斉開花に遭遇するチャンスや分子マーカーのテクニックなどの問題で調査の機会は希である。ササは地下茎から多くの地上稈を出すクローナル植物であり、これらの更新過程を明らかにするためには分子マーカーを用いた個体識別が必要である。我々は1979年に八甲田山小岳のチシマザサ群落が一斉開花し、その後の更新過程を30年間調査し続けてきた。20年目以降多くの個体が地下茎を出現させ、これ以降通常のデモグラフィー調査に加えて分子マーカーを用いた個体識別も行ってきた。本研究では、チシマザサの更新過程を明らかにする目的で、局所的な個体間の競争メカニズムの中でどのような個体が成長し、どのような個体が死亡するかを解析した。30年間固定して調査し続けてきた10個の1m2プロットにおいて、全稈にマークし、稈の位置、サイズ、加入・生残を調査し、可能な限りDNA抽出用の葉を採取した。個体識別にはSSRマーカーを用いた。初年のサンプルではAFLP法を併用し、個体識別の解像度を補償した。
20年目以降の10年間のデモグラフィーデータ解析の結果、個体数は10プロットの平均値で17.4個体から14.3個体に減少した。稈の高さも頭打ちになった。平均値では群落の定常状態に達しているように見える。しかし、期間中に64個体が死亡し、30個体前後が外から侵入しており、その内訳を見ると1稈で構成された個体が47個体73%であった。群落内では個体サイズの差が顕著になり、小さい個体がほぼすべて競争によって排除されている状態である。個体間では未だに劇的な競争が起こっている時期と言える。