| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-250
雌が交尾相手を決定する場合、交尾前の選り好みと交尾後の選り好みに大別される。交尾前後の選り好みの相対的な重要性や選り好みのターゲットとなる雄の形質の違いは、たとえ同種であっても、おかれている環境で異なってくることが予測される。アリモドキゾウムシは、不妊虫放飼法に利用するために、長期間にわたって大規模な増殖がおこなわれている。近親交配の進行や、過剰な高密度状態、捕食者が存在しないといったように増殖環境は野外とは大きく異なる状態にある。特に、交尾相手となる異性が常に大量に存在することは、雌の選り好みに大きな影響を与えると考えられる。そこで、本種の野生集団と増殖集団とで配偶行動を比較した。その結果、野生集団では交尾前に近親交配回避が見られたが、増殖集団では見られなかった。また両集団ともに、雌は交尾中に雄をマウントしたまま歩きまわることで、精子移送を拒否することがわかった。しかし、交尾後の選り好みには近親交配回避は見られなかった。これらの結果から、野生集団では交尾前に近親交配の回避が生じ、交尾後は血縁度とは別の形質に対する選り好みが生じていることが示された。また、増殖集団では、交尾前後ともにどの雄でも受け入れており、明確な選り好みがないことが示された。これは、高密度状態での強い雄のハラスメントを回避するために、とりあえず交尾を受け入れている(convenience polyandry)ことを示唆する。