| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-259
近年アリ類では、単為生殖による繁殖虫生産や完全な雄の欠失など、本来の膜翅目昆虫にみられる半数倍数性の性決定機構とは異なる繁殖様式が複数の系統から発見されている。このような特殊な繁殖様式の進化的意義の解明は、社会性生物の進化において、「性」が社会構造やその安定性にどのような影響を与えるのかを解明する上で非常に有用である。
本研究の対象であるウメマツアリVollenhovia emeryiは、不妊ワーカーは有性的に生産されるが、雄は父親の、雌繁殖虫(新女王)は母親のみの遺伝子を受け継ぐ特殊な繁殖様式をもつ。このような雌雄間で独立した生産形態は、双方に性投資をめぐる利害の著しい不一致をもたらす。そのため、雌雄それぞれに繁殖虫生産をめぐる戦略が進化すると考えられる。また、本種は多女王制の社会システムをもち、コロニー内には遺伝的に同一な複数の産卵女王が存在する。女王には飛翔能力が無く、巣内の雄と交尾をした後、母巣のワーカーを引き連れて巣分かれ創設を行う。そのため、女王にとって血縁度1.0の娘(新女王)の生産は最も高い適応度を期待できるが、過剰な新女王生産は労働力であるワーカー不足を促進させ、コロニーにとって非適応的である。本研究では女王の産卵時や成虫におけるコロニーレベルの性投資配分に注目し、資源や最適な繁殖虫性投資をめぐる雌雄間コンフリクトがコロニーの性投資配分に与える影響を調べた。