| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-275

絶滅危惧淡水魚類における積極的保全手法の確立―カワバタモロコのため池への再導入を例として―

*上野篤史,鈴木規慈,原田泰志

絶滅危惧ⅠB類に指定されているコイ科のカワバタモロコは、その分布域において現在も減少の一途をたどっている。特に、三重県では生息地の減少が著しく、かつて本種が広く分布していた鈴鹿川水系においても、現在の分布は一支流域の2箇所のため池に限定されている。絶滅危惧種の生息状況を改善させる積極的保全手法として、再導入が世界的に実施されている。しかしながら、日本における淡水魚の再導入事例は少なく、国内の現状に即した手法は未だ確立されていない。そこで本研究では、再導入によって積極的保全手法を確立するために、2010年6月中旬に、三重県鈴鹿川水系におけるカワバタモロコの再導入を行った。

再導入地点は同流域内の4箇所のため池であり、いずれの池も、水質やプランクトン相などはカワバタモロコの生息に適していると考えられた。再導入に用いた個体は同流域のカワバタモロコ個体群より採集し、1箇所あたり雌雄各25個体を放流した。再導入に先立ち、これらの導入元個体群の個体群特性を生態学的・遺伝学的に調査し、導入元としての適正を確認するとともに、再導入のための採捕数が過大にならないように配慮した。

その後、2010年8-10月の期間に、月一回の頻度で、再導入を行ったため池における採集調査を行った。その結果、全ての池において導入個体の生存が継続的に確認され、3地点では当歳魚が確認された。再導入の成否は継続的な採集調査によって判断されるべきであるが、当歳魚が採集された池では順調に定着しつつあると考える。一方、当歳魚が確認されなかった池では、低水温や水位変動により放流個体が繁殖を行わなかった、もしくは雑食性の生物に当歳魚が捕食された可能性がある。

本報告では、再導入後に行った採集調査の結果を踏まえ、再導入手法をより適切なものとするための課題とその解決可能性について議論する。


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