| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-277

ツシマヤマネコの交通事故地点における空間スケールを考慮した景観要因の解析

*近藤由佳, 高田まゆら(帯畜大), 原口塁華, 茂木周作(対馬野生生物保護センター), 前田 剛(対馬市), 柳川 久(帯畜大)

野生動物にとって交通事故は, 致死率が高く死亡原因の上位を占める直接的な人為的死因である. 最近の研究から道路周辺の景観構造が野生動物の事故発生確率を決定する予測因子になることが明らかになってきた. そこで本研究では, 絶滅危惧種であるツシマヤマネコについて, 事故発生地点周辺の景観要因を複数の空間スケールで解析し, 事故発生確率に影響を与える景観要因とその確率が決まる空間スケールを明らかにした. 長崎県対馬の上島内の道路において, 1992年から2010年10月の間にヤマネコの事故が発生した道路地点51カ所 (成獣21地点, 亜成獣30地点)と事故が発生したことのない道路地点からランダムに選んだ30カ所の計81カ所で解析を行なった. 複数のバッファサイズにおいて, ヤマネコの事故の有無を道路周辺の景観要因により説明する一般化線形モデルを, 成獣と亜成獣の2グループに分けて構築した. バッファ半径と最適モデルのAICとの関係は, 成獣では半径400〜600mを底として凹型であった一方, 亜成獣では一定だった. 成獣の場合, AICが最小だった半径500mの上位のモデルすべてに道路の幅員, 道路と河川の交点数, 森林面積の割合の3変数が含まれていた. 亜成獣ではすべてのサイズのモデルが幅員および緯度の局所要因のみで構成された. モデルに含まれた要因はすべて正に関係していたことから, 成獣の事故はその行動圏に相当する半径400〜600mの範囲内に含まれる道路と河川の交点数が多く, 森林面積の割合が高く, なおかつ幅員が広い地点で生じやすいことがわかった. 一方, 行動圏の定まらない亜成獣では幅員が広い地点で事故が生じやすかった. こうした結果から, 本種の事故防止対策を優先的に行なうべき場所の特定が可能になる.


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