| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-282
近年、開発などの人間活動により、森林の断片化が様々な地域で進行しており、集団の空間的な分布パターンを変化させ、残存集団の集団サイズの減少や集団間距離の増加などを引き起こしている。集団サイズの減少や孤立が生じている集団では、人口学的変動や環境変動だけでなく、遺伝的要因により集団の存続可能性が低下すると考えられている。保全遺伝学的観点から小集団化や断片化が集団の存続可能性に及ぼす影響を明らかにすることは重要である。ブナは、日本の冷温帯落葉広葉樹林の優占種であるが、富山県・石川県においては山地帯で連続的に分布している一方で、平野部の低標高地で隔離小集団として散在している。そこで、本研究では、これらの集団を材料として、ブナ集団における小集団化と隔離が遺伝的多様性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。隔離小集団(n < 100)8集団から235個体、隔離中集団(n ≧ 100)4集団から123個体、連続大集団7集団から210個体の成木の葉を採取し、また、隔離小集団・隔離中集団各4集団から176個の種子を採取して、核マイクロサテライト分析を行った。その結果、隔離小集団と連続大集団の間では、アレリックリッチネスの減少、遺伝的分化程度の増加がみられた。また、アレリックリッチネスは有効集団サイズと正の関係があった。遺伝的距離DAを用いた主座標分析では隔離中集団、連続大集団が互いに近く、隔離小集団は散らばって配置される散布図が得られた。隔離集団における成木と種子での比較では、遺伝的多様性の減少と遺伝的分化程度の増加が認められた。これらの結果は、集団間の遺伝子流動率が高い長命なブナにおいても、集団サイズの減少と隔離の影響が生じることを示唆している。