| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-283
日本の内陸に位置する長野県では、古くより河川性魚類の利活用が盛んであり、地域住民になじみの深い存在となっている。中でもサケ科魚類イワナは上流域における地域の代表的な魚類であり、長野県における重要な河川の生態系サービスの1つである。肉食性であるイワナは、水棲生物だけでなく落下昆虫などの陸棲生物も摂取するため、陸域環境の改変はイワナの生態に大きな影響を及ぼすことが予想される。近年のイワナ個体群の減少要因の1つは、スギなどの単一の針葉樹によって形成された人工林の増加による森林環境の変化であると予想されているが、詳細な研究例はいまだ少ない。今回、河畔林の種別がイワナの食性や健康状態に及ぼす影響について明らかにするために、広葉樹林が優占する区域と針葉樹林が優占する区域において、イワナの胃内容組成と肥満度(体重/体長3)を調べた。調査の結果、広葉樹林区域において胃内容物には水生生物の割合が高く、針葉樹林区域では陸生生物の割合が高いという傾向がみられた。また、広葉樹林区域ではイワナの体サイズ(全長)と胃充満度(胃内容物量/体重)ならびに肥満度との間に有意な相関はみられなかったが、針葉樹林区域においては体サイズが大きなイワナほど胃充満度および肥満度が小さくなる傾向がみられた。この結果は、針葉樹林区域においては、大型の個体ほど摂餌制限を受け、健康状態が悪化することを示唆する。そのため、針葉樹林で構成された人工林の増加は、特にイワナの大型個体に負の影響を及ぼすことが予想された。また、本研究は、針葉樹林優占の人工林の水域生態系への影響について理解するための環境教育の素材として、イワナが有用である可能性を示唆する。発表では、長野県における環境教育素材としてのイワナの有効性についても考察する。