| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-292
農業用水路は、水田や畦畔と並び水田景観を構成する要素の一つであり、特異な撹乱体制や物理的環境を有している。かつての農業用水路の主体であった土水路では、多様な水湿生植物が生育していたが、圃場整備による水路のコンクリート化は、それら水湿生植物の生育に影響を及ぼしたと考えられる。しかし、農業用水路における植物分布を扱った研究はこれまでほとんど無く、その実態には不明な点が多い。減少しつつある水田地帯における植物種多様性の保全を検討する際の基礎的知見を得るためには、農業水路網における植物分布パターンを広域的に明らかにする必要がある。
そこで本研究は、低地水田地帯の農業用水路網における植物分布と、それを規定する要因を明らかにすることを目的とした。
調査は、新潟県越後平野の20地域における121本の農業用水路で行った。植生調査では、各水路内に連続する1㎡の調査枠を10個設置し、夏季と秋季の2回、出現した全維管束植物の種名を記録した。また、環境要因として各水路の構造(土水路・二面コンクリート・三面コンクリート)、水路幅、定期的な水位、底土の厚さ、江ざらいの有無を記録した。
植生調査の結果、出現した植物種は158種で、そのうち在来水湿生種は76種であった。NMSを用いて、種組成をもとに水路を序列化した結果、種組成は土水路に比べてコンクリート水路でばらつく傾向があった。しかし、出現種数は土水路に比べてコンクリート水路で少なかった。これら水路構造の違いに加え、水位変動や土砂堆積、用水路か排水路かの違いも植物の出現に影響した。土水路では多様な水湿生植物が出現するが、三面コンクリート水路であっても、土砂が堆積する場合には水湿生植物の生育地として機能し得ることが明らかになった。