| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-294

カメラトラップによるツキノワグマ密度推定の可能性

*東出大志(新潟大院・自然科学),三浦慎悟(早大・人間科学),箕口秀夫(新潟大・自然科学系),青井俊樹(岩手大・環境科学系)

ツキノワグマは個体群縮小により保護対象となっている地域がある一方で、全国各地で人里への出没も相次でおり、人身被害や農作物被害などの問題が深刻化している。これらの問題に適切な対策を講じる上で、個体数およびその長期的な動態の把握は重要な要素である。現在クマ類の個体数推定にはヘアトラップ法が広く利用されているが、サンプル採取やDNA解析過程において精度やコストに関する課題も指摘されている。DNA解析における金銭的コストが調査実施に際して障壁となる場合も多い。そこで我々は個体群密度推定に向けた新たな調査手法として、斑紋パターンによる個体識別と、カメラトラップを用いた非侵襲的なサンプリング手法の開発を進めている。本発表では昨年試験的に行った野外調査の結果から、斑紋の撮影手法について検討を行うとともに、密度推定も試みた。

野外調査は岩手県北上山地で2010年の7~8月に10日間のセッションを2回行った。各セッションとも同一の20地点にType1とType2、2種類の設定でカメラトラップを配置し動画の撮影を行った。本調査においてツキノワグマが撮影された動画数は272であった。同一個体連続撮影の影響を考慮し、便宜的に30分以内の撮影を同一イベントとして扱った場合、撮影イベント数は94であった。また、トラップが有効である誘引餌喪失前のイベント数(有効イベント数)は35(Type1=15, Type2=20)であった。各有効イベントにおいて少なくとも1回斑紋が撮影される確率は94%(Type1=87%, Type2=95%)であり、いずれの設定においても高確率で斑紋の撮影に成功した。しかし、安定的な撮影画像を得るという点においては更なる検討が必要である。なお撮影画像から個体識別を行った結果、2セッションで少なくとも10個体が識別された。


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