| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-299

落葉広葉樹林帯におけるイヌワシAquila chrysaetos の餌利用特性を考慮した生息地の保全

*布野隆之,関島恒夫(新潟大学・院・自然科学),村上拓彦(新潟大学・農),阿部學(日本猛禽類研究機構)

イヌワシの生息環境は、主に樹木の少ない環境であるが、日本に生息する亜種ニホンイヌワシ(以下、イヌワシ)は、他の亜種とは異なり、ブナに代表される落葉広葉樹林帯に分布している。樹木の展葉や落葉による樹冠閉鎖率の季節変化は、上空から地上の餌動物を探索するイヌワシの視野に影響を及ぼすため、その影響は本亜種の採餌活動をはじめ、餌利用を通したヒナの生残といった繁殖活動にまで至る可能性が高い。そこで本研究では、落葉広葉樹の展葉に伴うイヌワシ採餌場所の変化とともに、餌利用の季節的変化がヒナの成長に与える影響を評価した。さらに、GIS解析により、イヌワシ行動圏内における採餌場所と餌動物の空間分布を対応させることで、本亜種における餌利用の季節変化の発生メカニズムを解明し、それをもとに、イヌワシ行動圏内における具体的な生息地保全策を提案した。調査つがいは新潟県に生息する1つがいであり、その行動圏は樹齢80年以上のブナを主体とする落葉広葉樹林帯であった。イヌワシ行動圏内における採餌場所は、落葉広葉樹林の展葉に伴い著しく減少した。また、展葉とともに、ニホンイヌワシの餌利用はノウサギからヘビ類へと明瞭に切り替わり、餌の切り替わり以降、餌の栄養成分の低下と餌搬入量の減少から、ヒナが小型化する傾向が認められた。ノウサギからヘビ類への餌の切り替わりは、展葉前にイヌワシ行動圏内の65%を占めた採餌場所とノウサギの生息場所の重複域が展葉後に消失したのに対し、ヘビ類との重複域が新たに形成されたことに帰因した。ヘビ類との重複域は、行動圏内のわずか0.4%であったことから、展葉後におけるこれらのキーハビタットを積極的に保護区に設定すると共に、今後は、人工林などに新たな採餌可能域を形成することも本亜種を保全する上で必要である。


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