| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-300
洞爺湖中島はエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の爆発的増加により,ササ群落の消失や下層植生の破壊などが生じている.洞爺湖周辺と中島で行われた鳥類相の多様性比較調査では,島内の鳥類相の多様性劣化や下層植生を利用して営巣する鳥類に関して繁殖への影響が報告された.その一方,通常ササの根本などの下層に営巣するヤブサメ(Urosphena squameiceps)は繁殖期に生息が多数確認された.そこで本研究では,エゾシカ高密度地域においてヤブサメの行動を観察し,高密度化がヤブサメの繁殖に与える影響の可能性を調査した.
調査は中島において,森林部を通過する約3kmで4月下旬~7月下旬にかけてルートセンサス法にてヤブサメのオスの縄張り位置を特定した.そこから任意で選択した縄張り5ヶ所において定点調査を実施した.ルート上のその他の縄張りについては,巣立ち雛の鳴き声カウントを6月下旬~7月に行った.縄張り数や巣立ち雛のカウントに関して,繁殖シーズンの基準としたエゾシカ低密度地域の森林(札幌市豊平区,森林総合研究所)と単一距離あたりの縄張り密度を比較して繁殖成功率を算出した.
ルートセンサスでは,孵化から巣立ち時期であるべき期間中に縄張り数が減少した.このことから島内で縄張りを形成したにも拘わらず,繁殖期を終える前にオスが縄張りを放棄したことが示唆された.定点調査では5ヶ所の縄張りのうち,オスとメスの繁殖行動が確認されたのは1ヶ所のみであった.巣立ち雛の鳴き声カウントについては, 1地点のみの確認となった.一方のエゾシカ低密度地域では9ヶ所の縄張りが確認され,全ての縄張りでオスとメスの繁殖行動が観察された.結果としてエゾシカの高密度化は単一距離あたりの縄張り密度には影響を与えないものの,繁殖成功率を低下させる可能性が示唆された.