| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-336
生物多様性の維持における半自然牧草地(以下、野草地)の自然的価値についての関心が近年高まりつつある。しかしながら、野草地の生態的評価は極めて不足しており、牧畜業従事者は野草地が改良草地(生産性の向上を目的としており、エネルギー投入量が大きい)に比べて生産性の面で劣るとの認識を変えていない。本研究では、農業・畜産生態系における生産性確保と生物多様性保全との妥協点を探るため、野草地と改良草地で刈り取り実験を行い、刈り取り処理(3水準)と草地タイプの違いによる植物の生産量と多様性への効果を検証した。
野草地、改良草地ともに地上部生産量は刈り取りによって有意に増加し、生産量に対する草地タイプの違いとその刈り取り処理との交互作用の効果は検出されなかった。この結果は、野草地は改良草地と同程度の生産性があることを示唆している。種数に対する刈り取り処理や草地タイプの違い、およびそれらの交互作用の効果は検出されなかった。しかし、野草地の実験区で記録された全体的な種数は改良草地に比べて多かったため、半自然牧草地の放牧利用によって生物多様性の高い生息地が提供される可能性は考えられる。
以上のように、本研究は農業生態学者ならびに牧畜業従事者に対して、農業生産かつ生物多様性保全に資する放牧システムを考える上で野草地の有用性を示すものである。