| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-167
種子の豊作に伴う個体数変動は、様々な小型哺乳類で知られている。しかし、個体数変動の際に遺伝的組成の経時変化や、移入個体がその土地に定着できているかどうかを調べた研究はほとんどない。本研究では、ブナの豊作によって個体数変動が起きるアカネズミを対象として、ブナの豊作が個体群の社会構造と家系の組成の変化に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査地は岩手県焼石岳の南麓とした。本研究では社会構造には2004年~、遺伝的多様性には2005年~2010年まで得られたデータを用いた。捕獲には生け捕りワナを用いた。調査は年に4~9回で、一回の調査は3日3晩である。2000年以降、ワナは0.49ha(70×70)に10m間隔で64個設置されている。捕獲個体は、性別・繁殖状態・齢区分・捕獲地点を記録し、その場で放逐した。また、2005年からは組織片の採集を行っている。採取した組織片のDNAからメスのmtDNA チトクロムbの塩基配列(388bp)を決定した。
ブナ豊作翌年の2006年は新規に加入成体も多く、この年は新たに出現した家系も多かった。また、2006年は新規加入個体のうち一年を通して成体の数が多かった。一方、ほとんどの年で優占していた家系は同じであったが、それぞれの年の個体の半数以上は少数の家系が占めていた。毎年新しい家系が加入していた。また、長期滞在する個体も存在していた。
以上のことから、アカネズミでは、ブナの豊作によって移入個体が他の年より多くなり、その後の高い個体数密度となり繁殖抑制が起こっていることが示された。また、個体数変動には繁殖による増加以外にも移入による増加も寄与していることが示唆された。新しい家系の加入は毎年起こっているようであり、アカネズミがよく移動することを反映した結果といえる。