| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-184
大規模な攪乱を受けた生態系において、生態系を構成する生物群の動態を明らかにすることは,生態系の普遍的な理論の解明や機能不全に陥った生態系を回復する手法の確立に大きく寄与する.しかし,生態系を大規模に破壊する意図的な操作実験は倫理的に不可能であるため,噴火やハリケーンといった大規模な自然撹乱は徹底的な破壊を受けた生物群の応答を調べる絶好の機会といえる.
伊豆諸島三宅島における2000年7月以降の噴火活動は,島内の森林植生を著しく衰退させたばかりでなく,鳥類や昆虫類,土壌動物など,島嶼生態系のあらゆる栄養段階に多大な影響を及ぼした.そのため,噴火後多くの生物群に対してその影響が調べられているが、クモ類への影響を詳細に調べた研究はまだない.
クモ類は陸上生態系において,多様な環境に広く生息する分類群であり,捕食性節足動物のなかでは大きな生物量を占める.そのため,栄養段階が上位と下位の生物群間の物質循環を助ける中間捕食者としての役割を有しており,噴火を起こした三宅島の島嶼生態系が回復していく過程で重要な役割を果たすと考えられる.
本研究では,比較的大型で生活史が詳細に解明されているジョロウグモNephila clavataを対象に,2000年噴火が三宅島内に生息するジョロウグモの分布・体サイズ・交尾活動に与えた影響を、2009年9月から10月の野外調査によって定量的に評価した.その結果,噴火の影響が著しい地域ではジョロウグモの密度が低下していたのに対し、体サイズは大型化し,繁殖成功率は上昇していた.この結果は,三宅島の噴火活動が噴火10年後になっても、ジョロウグモの生存と繁殖にいまだに大きな正と負,両方の影響を与え続けていることを示唆している.