| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-179
異なる生態系間の相互作用が双方の生態系に与える効果の重要性が指摘されて久しい。森林と河川、河口と沿岸の関係を示す研究は多いが、定量的調査に基づき森と海との相互作用を解明した研究は少なく、サケ科魚類、堆積物流出や鳥類などに着目した一部の例にとどまる。これまでの研究で、大河川より小河川を経由して海と陸が接する地域でより相互作用が強いことが指摘され、島や半島が多い日本列島でこの重要性は高い。しかし、沿岸の多くが護岸や道路などの人為的利用で分断される中、開発の影響を直接うける地表徘徊性生物に関する知見は少なく、生態学的な機能も不明である。
そこで、本研究では幼生期を海中で過ごした後に林内で成長する2種の陸生ガニに着目し以下の解析を行った。まず、過去の分布限界の記録を用い、海からの距離、土地利用、地形との関係を示した。次にエサの選好性と消費速度を飼育実験によって示した。最後に安定同位体比を計測し、同化されている餌を推定した。
その結果、アカテガニの分布限界域には海からの距離が最も影響し、標高や傾きの寄与もあった。ベンケイガニは植物・動物ともに消費したが、アカテガニは動物食の傾向が有意に強いこと、2種ともに照葉樹より落葉樹の消費のほうが多い傾向がありベンケイガニにおいて有意であった。CN安定同位体比の予備的解析結果からは2種共に土壌動物と植物を雑食した傾向が見られている。
海岸線の複雑性が潜在分布域を増加させること、2種は分解者あるいはその捕食者として異なる機能を果たすこと、照葉樹林内の植生の多様性がその機能に影響する可能性が示された。日本の暖温帯の海岸で普通に見られた陸生ガニが森林の分解者系におけるキーストーン種としての機能を果たす可能性は高い。