| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S02-3
日本における海岸植物の絶滅危惧の現状を俯瞰的に把握することを目的として,地域別の海岸植物リストを作成するとともに,海岸植物のレッドリストへの記載状況を整理した(澤田ほか2008).ここで海岸植物とは「海陸境界部に特有の立地を主な生育地とし,それ以外の立地にはほとんど生育しない在来の維管束植物」とした.地方植物誌等に示された分布情報を整理した結果,日本全体では64科280種が海岸植物としてリストアップされた.これらを主たるハビタットに基づいて区分したところ,「砂浜・砂丘・礫浜」に生育する“海浜植物”が79種,「塩湿地・マングローブ・汽水域」に生育する“塩湿地植物”が61種,「岩場・海崖・隆起珊瑚礁」に生育する“磯や崖の植物”が84種などとなった.環境省レッドリストへの記載状況を整理した結果,“塩湿地植物”の約43%,“磯や崖の植物”の約31%が何らかのカテゴリーで記載されているのに対し“海浜植物”では約13%にとどまり,国レベルの空間スケールでは“海浜植物”の絶滅の危険性は,“塩湿地植物”や“磯や崖の植物”にくらべ,低く認識されていることが示された.一方,都道府県版レッドリストを用いて都道府県レベルでの絶滅数を整理したところ,“磯や崖の植物”の絶滅はごくわずかであるのに対し,“海浜植物”では“塩湿地植物”と並んで多数の絶滅が確認された.種ごとの分布傾向をみると,“磯や崖の植物”は比較的狭い地域に集中する希少種的な傾向があるのに対し,“海浜植物”はより広域に分布する傾向があった.このために,“海浜植物”の絶滅の危険性は全国スケールでは低く認識されているのかもしれない.しかし,海浜植物の地域間の遺伝的変異やメタ個体群構造がほとんど明らかになっていない現状では,都道府県レベルで海浜植物の絶滅が進行していることは注意すべき問題と考える.