| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S04-2
日本で外来魚問題が問われて久しい.しかし,過去の議論の多くは,外来魚の捕食による在来種への影響などに集中し,外来魚とともに持ち込まれる病原体(ウイルス,細菌,寄生虫)とその影響に関する議論は余り活発ではなかったように思われる.その背景には,魚類病原体の研究は主に魚病学の分野で行われてきたために,生態学的な視点が欠如していたことが大きい.とは言え,近年,外来魚と外来寄生虫に関する知見が少しずつ集積され,時には深刻な,興味深い事実が明らかになってきた.本講演では,わが国における外来魚と外来寄生虫をめぐる近年の研究例を紹介するとともに,演者らのグループによる淡水域での研究成果を報告する.
まず,どのような外来寄生虫が外国から日本に持ち込まれ,どのような問題を起こしているかを総括する.ここでは特に,主に東京大学の研究グループによって明らかにされた,北米起源の単生類Neoheterobothrium hirameが日本沿岸の重要な漁獲対象種であるヒラメParalichthys olivaceus資源に及ぼしている影響を紹介する.
次に,わが国の淡水域において大きな個体群を維持するようになった外来魚,ブルーギルLepomis macrochirusとブラックバス(オオクチバス)Micropterus salmoidesが,宿主として在来寄生虫の個体群維持にどのような役割を果たしているかを述べる.また近年,沖縄島では多くの外来淡水魚が繁殖・定着しているが,それら外来魚が在来寄生虫によってどのように宿主利用されているかを報告する.
最後に,わが国における外来魚の寄生虫研究がいかに進んでいないかを述べるとともに,今,水面下で起きている外来魚と外来寄生虫,在来生物との関係解明に関する研究の必要性を訴えたい.