| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S04-3

生態系の中の寄生者:渓畔生態系においてハリガネムシ類が駆動するエネルギー流

佐藤拓哉(京都大・フィールド研)

寄生者は自然界に普遍的に存在し、全生物種の半数以上を占めるとも言われている。このため、寄生関係の起源や進化過程、さらには寄生者の生態系における役割の解明は、生態学の主要な研究課題と言える。例えば、寄生者-宿主の共進化過程でみられる宿主の行動改変は、両者の相互作用に留まらず、宿主と他種との相互作用の改変を通して、群集の構造・動態、さらには生態系機能にも影響する可能性がある。しかしながら、その野外実証例はほとんどない。

演者らは、成熟したハリガネムシ類(類線形虫類)に寄生・行動操作されたカマドウマ・キリギリス類が、晩夏から秋にかけて山地河川に大量に飛び込み、河川の高次捕食者であるサケ科魚類の重要な餌資源となることを発見した。ハリガネムシ類が駆動するこのエネルギー補償は、少なくとも日本各地の山地河川に普遍的に生じており、イワナ個体群の年間の総摂取エネルギー量のおよそ60%を占めている場合もあった。

上記の観察結果をもとに、演者らは、河川に供給される陸生昆虫類をハリガネムシ類の宿主と非宿主に分けて、それぞれの供給量を操作する大規模野外実験を実施した。その結果、宿主の供給量の抑制が、魚類のみならず、魚類のトップダウン効果の改変を通して、河川の生物群集や生態系機能にも影響することが明らかになった。また、現在進行中の広域調査において、ハリガネムシ類の季節的消長に地理的変異が認められた。このことは、寄生者が駆動するエネルギー補償にも地理的変異が認められることを意味し、その要因や生態学的意義の解明にむけた研究展開を予感させる。本講演では、これらの実証研究を紹介しながら、生態系において寄生者が駆動するエネルギー流の役割について議論を深めたい。


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