| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
シンポジウム S10-2
動物の行動の多くは、生物体内で発現する生理物質に支配される。動きが素早い、動きが鈍い、などの個性は、動物の各個体が示すパーソナリティーである。近年、パーソナリティーが個体の利得に直接もたらす影響と、その進化的な反応が、行動生態学の主要な研究トピックのひとつとなっている。個々の生物が示すパーソナリティーが、その個体の適応度にどのように反映するのかが、近年、多くの分類群生物で検証されている。しかし、その研究のほとんどは、表現型レベルの研究にとどまっており、その生理的、および遺伝学的基盤まで解明しようとする研究は、一部のモデル動物を除けば、まだとても少ない。本講演では、敵に襲われた際に、昆虫が示す死にまね行動をモデルとして、動物の脳で発現する生体アミンが行動に及ぼす影響、生体アミンの発現レベルがその個体の表現型を介して行動の適応度に及ぼす影響についての事例研究を紹介する。さらに生体物質に支配される行動形質が、生物の集団サイズ、および群集構造にまで影響する可能性について考える。本講演で紹介するモデルは、被食者としての甲虫種、そして捕食者としてのハエトリグモと吸汁性のカメムシである。死にまねは、実は、隣人の個体を犠牲にして、自分が助かる利己的な行動ともいえることが分かった。そして、集団および群集内に、低頻度でそのような利己的個体が潜入できる可能性について考察する。神経伝達物質と、個体群・群集構造とをリンクさせて考える際に、生理学と行動生態学における研究手法間に、どのようなギャップが存在するのかを述べ、議論を提供したい。