| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S12-3

代謝スケーリングから見えた食う-食われるの関係:代謝量の個体発生を考える

*八木光晴(九大・院・農/長大・水),及川信 (九大・院・農)

個体の階層における代謝スケーリング(生物の体サイズとエネルギー代謝量の関係)には、体サイズが異なる様々な種の間の関係(代謝量の系統発生)と、同一種内の様々な体サイズの間の関係(代謝量の個体発生)がある。代謝スケーリングに関する議論の多くは、哺乳類や鳥類などでの代謝量の系統発生について進められてきたという経緯があり、代謝量の個体発生は無視されるか、或いは両者は同じ関係であると曖昧に認識され続けてきた。その一方で、両者の関係は明確に異なり、区別して考える必要があるといった指摘もなされてきた。

本講演では先ず、代謝量の系統発生と個体発生について、これまでに報告された代表的な例を紹介し両者の違いについて整理したい。後半では、代謝量の個体発生の例として、「小卵多産の魚類や海産無脊椎動物の代謝量の個体発生は、代謝量の相転移によって特徴づけられ、生残過程と密接に関係する」とした発表者らの実証研究を紹介する。すなわち、個体当りエネルギー代謝量VO2と体重Mの関係は成長に伴ってVO2=aiMbのアロメトリー式で表され、スケーリングベキ数bの値は変わらずにスケーリング定数aの値が複数回(i=1~4)上昇し、成長に伴って階段状に代謝量—体重関係が相転移した。また、トラフグではa値の上昇前後で共食いのピークが観察され、攻撃個体はa値が上昇した個体で、被攻撃個体はa値が上昇していない成長の遅い個体であった。これらの事実は、早く高いa値の相に移行した個体は形態的•行動的変化を伴う高い運動性を獲得し、低いa値の相に留まっていた成長の遅い個体を攻撃したと考えられる。このような代謝量の個体発生的相転移は小卵多産戦略をとる魚類や海産無脊椎動物などで広く生じている可能性がある。以上、本講演を通して、代謝量の個体発生の重要性とその生態学的意義について議論する。


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