| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S15-4

微生物多様性研究における観測とデータベースとは?

山本啓之(JAMSTEC)

微生物の分類体系では、標本に相当する分離培養株を基準に種を命名してきたが、自然界の実態を知るうえで限界が生じている。例えば、バクテリアで登録された種名は1万あまり、その後ろには16S rRNAの塩基配列だけから認知された10万以上の分離培養できない潜在種が存在している。技術面では、メタゲノム解析により現場の微生物群集すべての遺伝子を読み出し、データの再構築から種構成や機能ポテンシャルを明らかにすることが可能になり始めている。得られた膨大な遺伝子情報からは、種の多様性だでなく機能の多様性も同時に解析することができる。一方、遺伝子レベルでの多様性解析から自然界での微生物活動を解析するには、遺伝子の水平伝播を考慮しなければならない。微生物では、系統群が必ずしも機能を代表しない例が数多く知られている。さて、自然界の環境変動にともなう微生物活動の観測では、細胞数と細胞サイズの計測、形態や集落形成の観察、プローブによる識別染色の観察、また現場培養などの手法が使われている。現場観測の結果を解釈する上でrRNA遺伝子による多様性解析や遺伝子プローブによる検出が有用である。微生物活動の現場観測とメタゲノム解析との組合わせはより効率的な観測手法につながると考える。環境変動に対する多様性解析では、群集構成、生息環境の物理化学条件、細胞数や生物量などの時系列データが必要である。微生物では、分離菌株の保存データと遺伝子データが系統的に保存されているが、時空間変動を考慮した観測記録のデータベースがまだない。微生物の多様性変動の調査研究には、クリアリングハウス(clearing house)方式やデータベースによる情報共有が必要である。


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