| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) E2-17 (Oral presentation)
温度依存性決定(TSD:temperature-dependent sex determination)とは、受精卵が分化する過程においてさらされる温度によって、性が決定されるような性決定機構のことである。TSDの適応的意義についてはいくつか仮説があり、その中の一つが“雌雄の適応度に温度依存性があれば、TSDは性染色体による性決定より適応的でありうる”というものである。
本研究では、雌雄の適応度に温度依存性があるという仮定の下で量的遺伝モデルを構築した。モデルの詳細は以下のとおりである。
(1)着目した量的形質は、産まれた子供がオスになるかメスになるかを決める境界の温度(閾値温度と呼ぶ)である
(2)生息域の温度はある分布をもつ
(3)雌雄の生存率は温度依存の関数である
(4)子供の閾値温度は、(遺伝率h2)×(両親の閾値温度の中間値)+(1-h2)×(集団の閾値温度の平均値)を平均値とする正規分布によって決定される
そのモデルを用いて、温度依存的適応度・生息域の温度分散・遺伝率が、TSD生物の初期性比と実効性比へどのような影響を与えるかについて調べた。
その結果、遺伝率が1に近い場合には、初期性比はメスの適応度の温度依存性が高くなるほどオスへ偏るが、温度依存性の影響は生息域の温度分散が低くなるほど小さくなり、初期性比は温度依存性に関わらず0.5へと近づいていくことが分かった。それ以外の遺伝率においては、初期性比は温度依存性が高くなるほどメスへ偏ることが分かった。これより、メスの適応度の温度依存性が初期性比へ与える影響は、遺伝率に大きく影響され、遺伝率が1に近い場合には、温度分散にも影響されることが分かった。また、実効性比はメス適応度の温度依存性が高くなるほどメスへ偏り、この傾向は遺伝率による影響を受けなかった。