| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-16 (Oral presentation)

本州太平洋岸における海浜植物ハマボウの遺伝構造

*岡崎芳樹,名波哲,伊東明(大阪市大・院・理)

アオイ科フヨウ属のハマボウは、河口や海跡湖などの塩性湿地に生育する落葉低木である。種子が長期間水に浮遊可能であり、海水に浸した後も発芽可能であることから、海流散布植物と考えられている。九州には比較的多くの生育地がみられるが、本州、中国、四国地域では生育地数が限られているばかりでなく、特異な生育環境のため、しばしば各々の生育地が長距離にわたって隔離されている。海流による長距離種子散布が予想される本種が、どのような遺伝構造を持つかは非常に興味深いが、現在のところ、種内の遺伝構造を詳しく調査した例は見当たらない。一方で、近年の護岸工事などの影響により、各地で生育地の縮小、消滅が報告されている。これを受けて、複数の地域で本種の保全活動が行われており、今後の的確な保全の為にも、各生育地の遺伝的な情報を得ることは重要だと考えられる。

本研究では静岡県から徳島県の16集団から447個体を採集し、ISSRマーカーを用いた解析を行った。その結果、和歌山県の潮岬を境に遺伝的差異がみられ、遺伝的多様性は潮岬以東地域の集団で低く、潮岬以西地域の集団で高かった。また、各地域内の集団間では遺伝的距離が小さく、地域をまたぐ集団間では遺伝的距離が大きかった。さらに、遺伝的変異の約8割が集団内に、約2割が集団間に存在していた。ハマボウの保全を検討する場合、潮岬を境とする2地域間の遺伝的差異を考慮した活動が必要だと考えられる。


日本生態学会