| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) I2-17 (Oral presentation)
海草は生物相豊かな海草藻場の主要構成種であり、海草の新規加入が撹乱後の海草藻場の維持や回復に大きな役割を果たすため、分散の程度を推定することは保全を考える上で欠かせない。本研究では黒潮圏沿岸域を含む八重山諸島、中国・海南島、フィリピン全域の計47地点に生息する1950個体のウミショウブ(Enhalus acoroides)を対象に、9種のマイクロサテライトマーカーを用いて集団遺伝学的解析を行った。
遺伝子型と個体数の比であるClonal diversityは平均0.87で、多くの個体群が主に有性生殖で維持されていることが判明したが、緯度との相関は無かった。対立遺伝子型の多様度はフィリピン集団で最も高く、海南集団はより高緯度の八重山集団よりも低かった。遺伝的分化係数FSTは全地点間で有意であり、FSTに基づくPCA解析、およびベイズ法クラスタリングでは、約1,100kmという距離にも関わらず八重山集団がフィリピン東側の一部と遺伝的に近いことも判明した。一方、海南集団がフィリピン西側集団と遺伝的に近いという結果にはならなかった。アサインメントテストでは、フィリピン東側集団から八重山集団への加入の存在が認められたが、逆方向の加入は認められなかった。
したがって、八重山集団の遺伝的多様性と新規加入パターンはフィリピン東側から日本列島へと流れる黒潮に影響されていると考えられる。しかし、地点間の遺伝的分化の程度が大きいことから、種子等の長距離分散による個体群間の交流頻度は低いことが示唆される。