| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-18 (Oral presentation)

マイクロサテライト遺伝マーカーによるウスユキクチナシグサ(絶滅危惧IA類)の極めて低い遺伝的多様性

*内海知子(京大・院・農),横川昌史(京大・院・農),高宮正之(熊大・自然科学),井鷺裕司(京大・院・農)

ウスユキクチナシグサは日本及び中国南東部に生育するハマウツボ科の植物である。日本には熊本県の一ヶ所のみに生育し、環境省レッドデータブックでは絶滅危惧IA類に指定されている。ウスユキクチナシグサの遺伝的多様性を評価するため、マイクロサテライト遺伝マーカーを用いた遺伝解析を行った。更に、現存個体数、結実率、発芽率を明らかにし、ウスユキクチナシグサの保全方針を検討した。

残存する全株数は211、全茎数が1,190、うち開花茎数が925であり、およそ120m×60mの生育地に散在していた。開発した25遺伝子座のマイクロサテライト遺伝マーカーを用いて64株を遺伝解析したところ、すべての個体は全遺伝子座において同一の遺伝子型を示し、日本に現存するウスユキクチナシグサの遺伝的多様性は極めて低い事が分かった。ウスユキクチナシグサは中国から持ち込まれて野生化した可能性が指摘されているが、最初の導入個体が少数で、遺伝的浮動により対立遺伝子が固定した可能性が考えられる。花あたりの種子数は平均56.8個であった。13株から採取した合計234個の種子を実験室で播種すると、105個(45%)が発芽した。そのうち84の実生を対象に、親個体においてヘテロ接合を示した2遺伝子座で遺伝解析を行ったところ、すべて親個体と同じ遺伝子型であった。ウスユキクチナシグサの倍数性は不明だが、この結果は、(1)ウスユキクチナシグサが二倍体で無配生殖をしている、又は(2)ウスユキクチナシグサが異質倍数性で2つの異なる遺伝子座において対立遺伝子が固定している事によって生じたと考えられる。現在の生育面積は約7,200m2と狭く、かつ遺伝的多様性が極めて低いため、ウスユキクチナシグサは環境変化に対して脆弱であると考えられる。従って生育地の保全とともに生育域外保全を行うことが望ましい。


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