| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-21 (Oral presentation)

温暖化と人為的改変が知床のオショロコマに及ぼす影響

*河口洋一(徳島大・工),谷口義則(名城大・理工),泉雄太郎(徳島大・工)

地球温暖化に伴う水温上昇により,海域では魚類の分布域が数百キロ北進するといった報告があり,温暖化が魚類群集に及ぼす影響に関する研究は予測から実証に移っている.河川における水温上昇は,特に上流域の冷水域区間が減少することで,冷水性魚類の個体群の分断化が進行するといった指摘もある.さらに,上流域における森林伐採やダム設置といった人為的改変が,温暖化による水温上昇に拍車をかけると考えられるが,国内の研究例は少ない.

本研究の対象地である知床半島には冷水性魚類のオショロコマが生息し,同地域は世界における同種の分布南限にあたる.原生的自然環境がよく残されている知床であるが,河川には砂防・治山ダムが300基以上設置されており,温暖化による水温上昇や,さらにダムによる人為的改変との関係について調べるのに適している.本研究では,知床半島の西岸15河川,東岸26河川を対象に,ロガー式水温計による夏季の水温計測,エレクトリックショッカーによる魚類調査,物理環境調査(水面幅,水深,流速,河床材料,カバー率),さらに調査河川におけるダム密度について調べた.調査は1999-2001年と2006-2011年に行い,今回は後者のデータについて結果を報告する.

知床半島の西岸と東岸で8月の平均水温を比較すると,西岸は東岸と比べて全体的に水温が高かった.西岸でダム密度の高い川は水温が高く,ダムがない川では水温が低かった.一方,東岸では全体的に水温が低く,ダム密度との関係性は明瞭でなかった.全体的に,ダム密度が高い河川では水深,流速,河畔林によるカバー率が小さくなり,魚類の生息密度も低く,個体群内に占める若齢個体の割合が小さくなる傾向が認められた.


日本生態学会