| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) K2-18 (Oral presentation)
待ち伏せ型捕食者である円網性クモには、目立つ体色で餌昆虫を誘引している種がいることが知られている。一方、円網性クモの中には、体色に関して種内変異を示す種も見られる。このような変異の存在は、体色の餌誘引機能だけでは説明が困難である。
さて、そのような種の一つであるギンメッキゴミグモ(Cyclosa argenteoalba)は銀色部分と黒色部分からなる腹部を持ち、背面の黒色部の比率は個体によって20-100%と大きな変異を示す。本種は4月から11月まで出現し、年二ないし三化性であると考えられているが、個体群の平均黒色率は春から夏にかけて上昇し、夏から秋にかけて減少するパターンが2010-2011年の調査で繰り返し見られている。本種では黒色部比率が高く目立たない個体の方が網面積当たりで見た餌衝突頻度が高い一方、夏季に直射日光に曝されると体温上昇の程度が大きく、夏季の造網場所が日陰部分に制約されている事が分かっている。このことから本種においては、採餌効率に関して体色にかかる選択圧と造網場所選択に関してかかる選択圧の相対的重要性が季節によって変化し、個体群の平均黒色率が季節変化している可能性が考えられる。この仮説を検討するために、個体の黒色率と適応度の関係が季節によってどのように変化するかを、5-11月の間毎月クモ個体を採集し腹部の色と形状を計測することで調査した。適応度の指標としては、腹部幅を腹部長さで割ったものを用いた。その結果、6月と11月は黒色率の高い個体ほど腹部が膨満していたのに対して、9月は逆に黒色率の低い個体ほど腹部が膨満していた。この結果は、春季に相対的に有利である黒色率の高い個体が夏季にかけて頻度を増やし、逆に夏季に不利になることで秋季にかけて頻度を減らすために平均黒色率が季節変動するという仮説を支持していると考えられる。