| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-116J (Poster presentation)
生態系モニタリングは、生物群集変化の原因を特定し、保全・管理を検討する上で重要であるが、変化以前からの長期的なデータはほとんど存在しない。一方で、湖沼堆積物に含まれる生物遺骸や生物・環境由来の化学物質は、過去の環境変遷を記録しており、これらを読み解くことで過去から現在にいたる長期的な生態系変化をモニタリングすることが可能である。本報告では、立山みくりが池と木崎湖において採取した、それぞれ全長約30cm、100cmの湖沼堆積物中の花粉組成から、過去100年間の植生変化を検討した。
みくりが池堆積物では、全層準にわたってハンノキ属やカバノキ属、マツ属単維管束亜属花粉が優勢であり、イネ科やカヤツリグサ科、セリ科、ヨモギ属花粉をはじめとした草本花粉も多く産出した。また、周辺には生育していないブナやスギ花粉等の、下部山地帯からの飛来花粉の存在も認められた。木崎湖堆積物については、堆積物の下部ではマツ属複維管束亜属やコナラ亜属花粉が優勢であり、イネ科花粉も多く産出した。しかし、堆積物の上部ではマツ属複維管束亜属やコナラ亜属花粉は減少し、スギ花粉の増加が認められた。
これらの花粉組成の変化は、周辺で人間生活が営まれていた木崎湖では、20世紀における人間の森林利用形態の変化によるアカマツやコナラ亜属を中心とした二次林の減少と、戦後の拡大造林によるスギ人工林の増加という植生景観の変化を示していた。一方で、高山湖沼であるみくりが池の周辺においては、大きな植生の変化はおきていなかったことが推定された。しかし、登山者の増加に伴う高山植生の減少や周辺環境の変化等についても、今後他の環境指標データとの比較を行い、検討を進めていく必要がある。