| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-303J (Poster presentation)
長野大学が立地する上田市塩田平は年間降水量が少なく(<1000mm/年)、農耕用のため池が多数存在し、そのいくつかは里山林内に造成されている。里山林のため池は、林内の環境異質性を高め、生物多様性を増加することが予想される。里山生態系の再生手法としてのため池造成の有用性について検討するために、本学所有の里山林(6.5ha)に、地域の伝統技術を用いてため池(直径約3m)を造成した。そして、2011年5月から12月にかけて、ため池を中心とした調査区(ため池造成区)とため池造成前と類似した環境条件を持つ林内に調査区(非造成区)を設け、生物相調査を行った。ため池造成区でみられた動物は計35種だった。ため池周縁ではナガズキンコモリグモなどの陸生節足動物が観察され、池内においてはヤブヤンマ幼虫などがみられた。非造成区では計45種の動物が観察され、イタチグモなどのクモ類が優占した。また、ため池造成区では計12種の植物が観察され、池内には湿地性のイグサが優占した。一方、非造成区はササ類など計13種の植物が観察された。ため池造成区のみでみられた動植物24種に、ため池造成まで林内で未確認だったものが少なくとも7種含まれていたことは、ため池が里山林の生物多様性を向上させることを示唆する。また、ため池は生態学学習(多種共存機構の理解など)に利用されており、里山林における新たな生態系サービスの創出に貢献した。今回のため池造成では、伝統的なため池造成技術に詳しい地域住民からの積極的なサポートを受けた。積極的サポートを受けた理由は、年間降水量が少ない塩田平の住民が、ため池に強い関心を示す文化的特性を持つからなのかもしれない。地域の文化的特性を踏まえた里山管理の手法は、地域主導の里山生態系管理の促進に重要な役割を果たすことが期待される。