| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-308J (Poster presentation)
蜻蛉目において、単一種の保全を目的としたミチゲーションでは、結果として成虫の個体数が求められ、これまでの多くは、調査時に発見した個体数の実数しか示されなかった。また、対象種の日周活動や生活史が無視され、比較に耐えうるデータは皆無に近いといえる。本プロジェクトの初期、発見した生息地では、成虫個体数の推定に標識再捕獲調査を適用した。成虫の発生ピークとなる6月後半から7月前半は、Jolly-Seber法やManly & Parr法で計算すると、日当たり個体数は雌雄合計で約3,000頭と推定された。雌雄の発生消長はほぼ同じで、本種に処女飛翔は存在しなかった。この調査では、全ての捕獲個体に二酸化炭素麻酔を施し、捕獲個体の体色などから羽化後の成熟段階を推定するなど様々な技術を開発・工夫している。しかし、捕獲から放逐までに成虫を傷つけたり、捕獲のためにヨシ群落内に分け入り、一時的に群落内にパッチ状の開放空間ができると、アオモンイトトンボなどが侵入して、ヒヌマイトトンボの死亡率が高くなる可能性が考えられた。そこで、標識再捕獲法で推定した日当たり個体数と、同じ場所内で行なったライントランセクト調査で発見した個体数との関係を2年間にわたって検討し、人工的なヨシ群落では、ライントランセクト調査で個体数を推定することにした。調査の結果、初年度の2003年は、総個体数が900頭弱と推定されている。推定総個体数は2004年に10,000頭を超え、その後、24,000頭(2005年)、46,000頭(2006年)、80,000頭(2007年)、約59,000頭(2008年)、70,000頭(2009年)、76,000頭(2010年)、75,000頭(2011年)と変動した。すなわち、ミチゲーション開始4年目にして、既存生息地に匹敵する密度に達し、プロジェクトは成功したといえる。