| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-315J (Poster presentation)
生物の保全において適切な保全ユニットの決定はその根幹となる問題である。保全ユニットの決定において重要である進化的に重要なユニット(ESU)の決定や保全政策の策定などにおいて、対象生物の遺伝的多様性や系統情報は非常に大きな役割を持つ。
コイ科タナゴ亜科の種は二枚貝に産卵するという生態学的に興味深い特徴をもつ分類群であるが、近年の生息地環境の悪化や外来種の影響によって日本産のほとんどの種がレッドリストに記載されている。その一種、タビラは九州から東北まで分布しており、地域によって形態や産卵母貝、卵形などが異なるなど日本に分布するタナゴの中では例外的に国内で分化している。本種も他のタナゴと同様に近年急速に数を減らしており、レッドデータリストでは3亜種(絶滅危惧IA類1亜種とIB類2亜種)にわけられ記載されている。しかし、近年の分類では5亜種として記載されておりレッドリストとの間に不一致が見られる。また、日本列島に広く分布しているものの遺伝的な研究が行われていないため、亜種間をふくむ地域集団間の系統関係や遺伝的多様性は明らかになっていない。そのため、遺伝的な研究に基づいた保全ユニットとしての亜種の適切さの評価やESUの推定が急務であると言える。
本研究では核とミトコンドリアの複数の遺伝子を解析することによって、タビラの種内における地域集団間の系統関係と列島内における分布形成史を推定した。さらに地域集団の遺伝的多様性を明らかにし、これらを基に保全の基盤となるESUを推定した。その結果、すべての亜種を含む6つのESUが存在すると考えられ、そのいくつかは遺伝的多様性が低いことが示された。これらの結果を今後の保全政策の決定に反映させることで、本種のより効果的な保全が可能になると考えられる。