| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-320J (Poster presentation)

夕張岳に進出したエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)による植生被害の傾向

*杉浦晃介(酪農大院・野生動物),佐藤 謙(北海学園大・工),丹羽真一(さっぽろ自然調査館),吉田剛司(酪農大院・野生動物)

エゾシカの個体数増加に伴う生息域の拡大により,希少な高山植物が数多く生育する夕張岳の高山帯へエゾシカが進出している.高山植物や高山植生に対する食害が顕著になってきたことから,北海道により緊急避難的な希少植物の保護と植生に関する食害把握のための電気柵や物理柵を用いた調査が行われている.本研究は,エゾシカ採食植物の季節的変化を把握することによって植生被害の傾向を明らかにし,植生の保護対策に資する情報収集を目指した.また,自動撮影カメラを用いたカメラトラップ法により,高山帯に進出したエゾシカの生息実態を把握した.

食痕調査は,登山道沿いの踏査線約6kmの範囲において2011年6月から10月までエゾシカの食痕が確認された維管束植物を記録した.食痕は134種で確認され,そのうち木本種は52種,草本種は82種であった.登山道外も含めた夕張岳全体では183種で食痕が確認され,16種の希少野生植物が採食されていた.垂直分布帯ごとの食痕発見率の月別推移は,高山帯では7月から8月にシナノキンバイソウやイワイチョウなど特定の種が集中的に採食されており,今後被食株数の変化などを注視する必要がある.山地帯や亜高山帯では秋季となる9月から木本類の食痕が増加する傾向にあった.

自動撮影カメラは2010年と2011年の7月から10月まで,森林限界(標高1,400m)以上の雪崩地高茎草本群落や雪田草原,蛇紋岩荒原草本群落に延べ12台設置した.設置地点すべてにおいてエゾシカが撮影され,夜間に北海道希少野生動植物保護条例の指定種であるエゾコウボウを採食する姿も確認された.設置地点ごとの撮影頻度を比較すると,荒原草本群落の設置地点で撮影頻度が著しく高く,同群落に対する対策の必要性が示唆された.


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