| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-325J (Poster presentation)

各成長段階におけるツチフキの利用環境

*林浩介,金銀眞,鬼倉徳雄(九州大院・農)

ツチフキ(Abbottina rivularis)は、日本では本州中部以西に分布するコイ科の淡水魚で、2007年度版の環境省レッドリストでは絶滅危惧種Ⅱ類に指定されている。ツチフキに関する生態学的研究は進んでおらず、利用環境についての知見が不足している。今後、ツチフキの保全を行う上で、利用環境に関する知見の蓄積は極めて重要である。そこで本研究では、各成長段階におけるツチフキの利用環境を明らかにすることを目的とし、2009年10月から2011年9月までの毎月上旬に、佐賀県牛津川に隣接する農業用水路で調査を行った。水路内に12地点の定点を設け、各地点においてタモ網を用いたツチフキの定量採集と、物理環境(最大水深、底質、水深の多様性、植生、Ph)の測定を行った。採集した個体は、水を張ったバットに移し、写真を撮影後、採集地点に放流した。その後パソコン画面上で、個体数と0.1mm単位までの体長を計測し、体長と季節を考慮して各成長段階に分類した。各成長段階での個体数と地点ごとの物理環境をもとにGLMMを用いた解析を行い、利用環境を明らかにした。

調査を通じて、のべ994個体のツチフキが採集され、それらを体長と季節を考慮し、4つの成長段階(稚魚期、成長期、非成長期、産卵期)に区分した。全ての成長段階を通じて、地点ごとの捕獲傾向に大きな変化が見られなかったことから、ツチフキは成長にともなった好適環境への大幅な移動は行なわず、永続的に生息環境条件の揃った場所に生息することが示唆された。また、各成長段階で、個体数に影響を与える物理環境要因を解析した結果、全ての成長段階に共通して、最大水深、底質(泥底)、水深の多様性が選択されことから、ツチフキの生息環境にとって水路の構造的な要素が重要であることが示唆された。


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