| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-331J (Poster presentation)
近年、人里付近へのクマの出没問題が顕著であり、出没要因を分析する上でクマの栄養状態(脂肪蓄積状態)を評価することが求められる。本研究では、ツキノワグマの脂肪蓄積状態評価に対して、より有用な指標の検討を行った。
近畿圏において捕殺および死体回収された成獣個体(92頭)を用いた。これらの個体に対して脂肪蓄積状態評価の指標として、腎周囲脂肪指標 (KFI)、背側皮下脂肪厚 (BF)および、外部計測値(全長および体重)から求められる体格指標 (BCI) を計測した。これらの計測値を、実測した体脂肪率と比較することにより、ツキノワグマに対する脂肪蓄積状態の指標としての有用性を評価した。なおBCIは、Cattet et al. (2002) の方法に従い、捕獲個体351頭のデータを用いてツキノワグマに対するBCI換算式を算出した後、求めた。
KFIおよびBFの体脂肪率との相関は、BF (R2=0.78) がKFI (R2=0.66) よりも高かった。KFIとBFの関係をみると、BFとKFIには脂肪蓄積の順位があり、ツキノワグマにおいて脂肪はBF(皮下脂肪)に蓄積されやすい傾向があることが示唆された。BCIと体脂肪率との相関は0.49であり、ばらつきが大きかった。
以上より、今回用いた3指標では、BFは体脂肪率を反映しており、死亡個体を対象とする場合は、ツキノワグマの脂肪蓄積状態指標として最も有用であると考えられた。KFIは、値が低い場合でも体脂肪の蓄積は増加している場合があることを念頭に使用する必要があることが示唆された。生体個体への適応が可能であるBCIは、ある程度の脂肪蓄積状態を評価できると考えられるが、より精度の高い換算式の検討が必要である。