| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-334J (Poster presentation)
日本列島におけるイワナ属の分布は、水温の上限によって規定され,気候変動による地理的分布の変動や生息地の分断化が生じることが報告されている(Nakano et al,1996).しかし,先行研究では,統計的な検証が行われておらず,水温のみの検討となっている.このため、イワナ属の分布情報と複数の環境要因をもとに, MaxEnt法によって、環境応答および生息適地の推定を行った.分布情報について、本州ではニッコウイワナおよびヤマトイワナを,北海道ではオショロコマを対象として既存データを収集した.環境要因には,年平均気温,WI,地下水温推定値,地質,傾斜角度を用いた.さらに,温度上昇(1~3℃)による分布域の変化を推定するため,MaxEntにより外挿し,生息適地の減少率を計算した.生息適地の閾値には,ROC分析によるカットオフポイントを用いた.
これらの結果から,国立公園などの保護区の有効性をギャップ分析によって検討するために,生息適地・温度上昇による消失地の面積と保護区によるカバー率を求め、都道府県別および流域別に集計した.その結果,中国地方5県に加え,兵庫,京都,茨城において生息適地と保護区の重複率が低かった.また,1℃上昇した時の消失率は中国・近畿地方において60%前後,中部・関東・東北地方では20%前後となり,地域差が顕在化した.生息適地の消失地と保護区の重複率は神奈川・東京で40%前後,近畿地方で20%前後,他多数は10%未満となった.保全の優先順位を勘案すれば,中国地方における保全対策が急務であると考えられる.オショロコマについては,流域別に同様の集計を行った.その結果,天塩川流域が道内3番目の生息適地面積を占めるが,保護区の重複率が0%であり,温度が1℃上昇の時に35%程度の生息適地面積が減少すると予想されるため,何らかの対策が必要と考えられる.