| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-274J (Poster presentation)

ヤマトシロアリのワーカー分化に女王フェロモンと生殖虫抽出物が与える影響

*中川和樹(茨城大院・理工), 吉村美穂, 前川清人(富山大院・理工), 大村和香子(森林総研), 北出理(茨城大院・理工)

シロアリは孵化後の発生過程で、異なるカスト(階級)へ分化する。ヤマトシロアリでは、幼虫は3齢で、翅芽を持たないワーカーと翅芽を持つニンフのいずれかへ分化する。親と隔離して飼育した幼虫の場合、どちらへ分化するかは1遺伝子座の遺伝子型により決定される。一方、ニンフになる遺伝子型の幼虫でも、生殖虫と共に飼育すると、一部はワーカーへ分化する。このことから、生殖虫が分泌するフェロモンが、幼虫のカスト分化に影響を与えることが示唆される。本研究では、(1)既知の生殖虫分化抑制フェロモン(女王フェロモン)と、(2)雌雄一次生殖虫からの抽出物が、ニンフ遺伝子型を持つ幼虫のカスト分化へ与える影響を調査した。また(3)初期コロニーの行動観察を行い、フェロモンの伝達様式についての情報取得を目指した。

単為生殖で得られたニンフ遺伝子型の幼虫に、生殖虫分化抑制効果が示された濃度で女王フェロモンを供与した結果、フェロモンの有無にかかわらず、ワーカーに分化した個体はなかった。報告されている女王フェロモンは、ニンフ・ワーカーの分化に影響を与えないと考えられる。生殖虫、幼虫、ワーカー間のグルーミングと栄養交換の頻度をのべ100時間観察した結果、雌生殖虫から雄生殖虫あるいはワーカーへの肛門食の受け渡し頻度が非常に高いことが判明した。これらの結果に基づいて、雌雄一次生殖虫の (1) 頭部、(2) 消化管とその内容物、(3) 消化管を除く胸・腹部、の3部位から極性が異なる3種の有機溶媒によって得られた抽出物を、ニンフ遺伝子型幼虫に与え、カスト分化への影響を検証中である。実験結果から、生殖虫のフェロモンがカスト分化に与える影響、フェロモンの発生源と伝達様式について考察する。


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