| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-278J (Poster presentation)
アメリカ合衆国からコスタリカにかけて分布するアオジャコウアゲハの後翅は、裏側が金属光沢とオレンジ色の派手な模様をもち、雄の場合、表側も金属光沢を放っている。本種はウマノスズクサ類を寄主植物とし、アリストロキア酸を体内に溜め込むため、鳥などの捕食者にとって有毒であるといわれ、後翅の裏側の模様は警告色であるとされてきた。一方、雄の後翅の表側の色は、性選択によって進化したといわれ、雌の選好性と関係づけられてきたが、その理由は説明されてこなかった。一般に、チョウの雄が交尾時に雌へ渡す精包には栄養物質が含まれており、雌はそれを用いて卵生産や体組織の維持を行なっている。大きな精包を受け取った雌や精包を複数の雄から受け取った雌は、そうでない雌よりも多くの卵を産むことができるので、本種の雌が雄の翅色に選好性を示すのは、特定の色の翅をもつ雄は大きな精包を生産しているという可能性が考えられた。そこで、室内飼育し羽化させた雄を、羽化後1~3日の間に未交尾雌と交尾させ、雌に注入した精包の重量と精子数を測定した。また、雄の左後翅を切り取り、表側の中心部分の色をスペクトロメーターで測定した。注入精子数と雄の翅色との間に関係は見られなかったが、後翅の表側が鮮やかで、緑色に近い雄ほど大きな精包を雌に注入していた。この傾向は雌の選好性と一致している。したがって、アオジャコウアゲハにおいては、雄の翅の色が、注入できる精包の量を示すシグナルになっており、雌は、より大きな精包を得るために、雄の翅の色に対する選好性を獲得したと考えられた。